西川さんのこと 安堵劉(安藤規央)

 

まじにロックンロールをはじめて見た時は、ぶっとんだ。

なんておかしなバンドだろうと思った。俺は元ネタのウシャコダを知らなかった。

そういう意味の免疫がなかったのだ。俺と西川さんとの音楽的な共通点はあまりない。

だが、シンガー・フロントマンの芸、パフォーマンスという事において、

俺は西川さんのフォロワーである。真似したのだ。

当時サウザンドでシンガーを兼ねはじめていたのだか、MCに困った。

どうしていいのか分からないし、誰も教えてくれない。

身近の先輩を手本にした。それが西川さんだ。

盗んでパクッテ参考にし自分のMCを確立していったのだ。

現在の自分のバンド、AndrewではあまりくどくMCをやらないが、それでも客いじり?

をすることがある。カウントダウンさせたり、歌わせたり、拍手させたり、踊らせたり?

する。西川さんから学んだ事をいまだにおさらいしている。

俺は今年で四十五になるがいまだに西川さんの影響下? にあるのだ。

MCだけではない。音楽的なサジェスチョンもかなりいただいた。

あるとき二年生のバンドが練習していた。それを西川さんが見ていた。

(軽音楽部ではよくあるパターン、聞いていて先輩がアドバイスする)

西川さん、間奏のある箇所にキメを入れたら?

とアドバイスしていた。オーティス・レディングやR&Bによくあるような、

んかっ、んかっ、んかっ、んかっ。というあれである。

俺は他人事ながら余計なお世話? だと黙って聞いていたが、

肝心の二年生バンドの人達は言われている意味すら分からずに呆然としていた。

西川さんは歯がゆくて地団太踏んでいた。

だが早速俺はサウザンドのアレンジに取り入れてみた。

TOTOのオール・アス・ボーイズのギターソロの真ん中にこのキメをいれてみた。

唐突だが、意表をついて面白い。

長い間この曲は西川R&Bキメ? アレンジで演奏されていたのだった。

またある時、部室で西川さんブルースハープを吹いていた。

『安藤、お前、ベントって出来るか?』ベントとは口先だけで音程を下げるテクだ。

俺は、出来ます。と答えた。

実は俺、ジョン・レノンの『恋する二人』とか、クリームの『スプーンフル』の、

ハープパートに憧れて、Gのハープと両手がフリーになるハープホルダーまで持っていた。

だから知らないわけではない。

俺はやってみた。だが微妙に違う。

今度は西川さんがやってみた。これも微妙に違う。下がっていない。

また俺。違う。さらに西川さん、なんとなく違う。

これを延々繰り返した。そして二人とも自分こそが、

正しいベントであると主張しあうのだが、

その実、二人ともベント?  をちゃんとマスターしていないのは明白だった。

単なる意地の張り合いである。

またこんな事も言ってくれた。

 

『お前はメロディメイカーだからいいよな?』

 

こんな言葉ではなかったかも知れぬが、そんな意味のことを言われた記憶がある。

その時は、何言ってんですか? 先輩。 ぐらいで終わったのだが、実は重い言葉だ。

当時サウザンドは当たり前のように自作し、オリジナル曲で勝負していた。

まじにロックンロールはじめ先輩方々も、

オリジナル曲をやるバンドは存在されていたのだが、

恒常的にオリジナル曲をプレイするバンドは俺たちがはじめてのような気がする。

良くも悪くも、俺という人間の本質を捉えた言葉だ。

思春期、物心がはっきりした頃から、俺は自然とメロディを創り、言葉遊びをしていた。

才能? 分からない。中途半端なプロで通用しない、適当な能力?

であるが、カバーやコピーで済むなら、それで完結する。

だが既存の曲では言い現せない気持ち、感情を表現したいからオリジナルを創るのだ。

それがなければ凡百のオリジナル曲なんて糞である。誰が聴くのだ?

今現在も俺は曲を創り続けバンドで表現し続けている。

今さら売れようとか、当てようなんて微塵も思わない。

もうどうでも良い事だ。関係がない。

西川さんの言葉がもう一度蘇る。

 

 

 

『お前はメロディメイカーだからいいよな?』

 

 

 

良かったのか?  悪かったのか?  未だに分かりませんよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

  

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